宮崎県立美術館の開館20周年記念式典が行われました。
県立美術館は、置県100周年記念事業として整備が進められた県総合文化公園の敷地内に、平成7年10月17日に開館しました。
「県民の皆様に親しまれる開かれた美術館」を目指し、国内外の優れた作品の鑑賞や、創作活動の発表、学習の場として利用いただき、今日までの来館者は約380万人となっています。所蔵コレクションは、ピカソ、マグリット、ボナール、シニャック、瑛九など、約4000点を超えています。
近年では、県内各地に出向いて所蔵作品を展示する「旅する美術館(タビビ)」など、「アウトリーチ」活動にも積極的に取り組んでいます。以下の写真は、昨年の日之影町での「タビビ」。たまたま高千穂町からの帰りがけに気付いたもので、ふらっと立ち寄ったときのもの。
それにしても、昨年の「タビビ」といい、よくたまたま通りかかる私です(笑)。
現在、県立美術館では、20周年を記念した特別展「川端康成の眼」を開催中。また、20年間の全ての特別展ポスターの展示も行っています。この機会に、ぜひ県立美術館にお運びください。
20周年という節目にあたり、今後を展望していくことも大切です。厳しさを増す財政状況の中で、基金も活用しつつ所属コレクションの充実を図ることをはじめ、学芸員等の専門性や企画力の向上、県内(都城、高鍋、中島記念館)や県外の美術館等との連携、さらに親しまれる美術館づくりなど、さまざまな課題に取り組み、より一層「県民の皆様に親しまれる開かれた美術館」を目指してまいります。
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野田秀樹さんの新演出によるオペラ「フィガロの結婚~庭師を見た~」を鑑賞。大いに感心するとともに、感動、感激でした。
舞台は、黒船来航した時代の長崎。アルマヴィーヴァ伯爵夫妻の館で、日本人の使用人等と繰り広げられる物語という設定。西洋人のキャストによるアルマヴィーヴァ伯爵、伯爵夫人、ケルビーノの3名は、そのままの名前で。日本人キャストの役名は、フィガロ→フィガ郎、スザンナ→スザ女、マルチェリーナ→マルチェ里奈、バジリオ→走り男、ドン・バルトロ→バルト郎など日本名に。
こういう設定を見ただけで、意欲的な新演出にありがちな、演出家の趣向や思いつきに走った、押しつけがましい、独りよがりの舞台なのかなと、思い切り<偏見>を持って臨んでしまいました。だいたい、蝶々夫人でもあるまいし、なぜ長崎なのか。
ところがどっこい。そんな思い込みを吹き飛ばすような、とても分かりやすく、面白く、歌や音楽もじっくり聴かせて、歌手や役者たちが躍動しと、魅力あふれる舞台となっていました。演出の野田秀樹先生、このコラボを持ちかけた指揮者の井上道義先生、誠に申し訳ありません(笑)。
オペラではチョイ役のアントニオ→庭師アントニ男が、物語の狂言回し。舞台設定や筋書きを説明し、場面転換のアクセントとなり、登場人物の心理描写を行い、黒子となったり役柄に戻ったりと大活躍します。途中のレチタティーボを省略してセリフで説明することにより、分かりやすさと上演時間の短縮化を狙ったり、文楽の人形遣いのような演出を加えたり、記念撮影のカメラマンとなったり等々、演出上のカギとなる役柄です。これを演じた廣川三憲さんは、俳優さんにも関わらず、ちゃんと歌も披露されます。大拍手!
時には、過剰じゃないか、説明過多ではないかと思えるような演出もあるものの、オペラファンとして許容範囲にあると感じたのは、しっかり歌も聴かせるという姿勢が感じられたこと。これはというアリアやアンサンブルなど、ちゃんとクローズアップされていました。もともと作曲家が音楽で表現しているのだから、余計な演出は控えたらどうだろうと思うようなことも多いのですが、まあ大丈夫でした。というか、演出家としての気持ちがわからなくもないというところ。見ている方の勝手な思い込みかもしれませんが、<分かりやすくしてますよ>とか、<途中で間延びしないよう工夫してますよ>とか、<こうすると面白いでしょう>といった野田さんの影がちらつきます。
フィナーレにも大いに<クセのある演出>が入るのですが、まあ、伯爵夫人の気持ちとしてはそうだろうな、簡単にめでたし、めでたしとはならないだろうなと納得させられるものがあるので、わからなくもないもの。ただ、音楽の流れは邪魔することになるのですが。
舞台上方に設定された大型の字幕スクリーンは、視線の動きを考えると舞台脇に置かれるより見やすい上に、大きさを利用して複数のセリフを表示できたり、芝居の中で記念撮影した写真をパッと写し出したりと、アイデアあふれる使い方。この字幕自体、オリジナルとは別の内容や表現が含まれていて、野田さんが自由に表現したもの。大いに笑わせますし、いろいろメッセージが込められています。
ただ、伯爵が伯爵夫人に赦しを請うフィナーレの場面では、字幕の面白さで笑いが起こっていましたが、さすがにあの美しい音楽にはそぐわないと思われました。
歌手の方では、カウンターテナーでケルビーノを歌ったマルテン・エンゲルチェズにはゾクゾクさせられました。あの高く柔らかい音を、大きな<楽器>で響かせるわけです。特にケルビーノにはカウンターテナーが向いているのかもしれません。また、スザンナ→スザ女の小林沙羅さん、役柄にピッタリはまっていて、その豊かな響きにも魅了されました。
以前、宮本亜門さん演出のオペラ「魔笛」を見たことがあります。東京二期会とリンツ州立歌劇場の共同制作によるこのプロダクションは、主人公がゲームの世界に入って物語が展開するという設定。最新のプロジェクション・マッピングを駆使して、シンプルな空間に多様な表現や世界が展開する幻想的な舞台でした。
このときも、演出が勝ち過ぎて、<やらかして>しまうのではないかと恐る恐る行ったところ、気になる点もありはしましたが、大いに感心、感激したのを覚えています。
こうしてみると、当代一流の演出家の力というもの、さすがと感心させられます。
宮本さんには、「魔笛」という一風変わったストーリーのオペラを、どのように説得力のあるものとして表現するかという問題意識があったと思います。また、野田さんの方は、あまりオペラになじみのない芝居ファンにも、面白く楽しんでもらえるように、でも、オペラファンから背を向けられることのない程度に新しい楽しみ方を提案するように、人気のオペラ「フィガロの結婚」の素材を再構成して一つの舞台を創り上げたというようなイメージでしょうか。
県立美術館が、「旅する美術館(タビビ)」や「わがまち いききアートプロジェクト」など、建物の中での展示にとどまることなく、「アウトリーチ」活動に取り組んだりするように、野田さんや宮本さんのオペラは、オペラや芝居からのアウトリーチの試みなのかもしれません。そして、このことは、芸術表現の幅広さや豊かさを表し、その可能性を示し、大いに成功しているように思えました。